世の中の真実
1、 要旨
「2ちゃんねる」の創始者である西村博之氏が「社会」「仕事」「教育」「政治」というテーマごとに、多くの人が気づいていない「世の中の真実」を明かしている。その著書「世の中の真実」の中から抜粋して、以下に記す。
2、「社会」
(1)「競争」は激しいのに「衰退」していく
発泡酒はなんでもおいしくつくる日本のメーカーにあって、めずらしくまずい商品です。なぜ、そんな商品が生まれたかというと、ビールメーカーが「酒税対策」をしているからです。350ミリリットルのビールの場合、売値は220円前後ですが、そのうち70円は酒税です。同じ容量で、発泡酒は47円、「第三のビール」は37.8円の酒税がかれられています。消費者に少しでも酒税が安いものを提供しようと、麦芽の量を減らしたりしてつくったのが発泡酒であり第三のビールです。麦芽量を減らせば味が落ちることは承知の上で、それでも酒税を安くすることを目ざしたわけです。1994年にはビールメーカー5社で合計5億7200万函のビールを売上げていました。それが2018年には1億9400万函まで落ち込んでいます。その代わり、1995年から発泡酒が、2004年からは第三のビールが出てきて、今ではそれらの合計がビールを抜くまでになりました。しかしながら、全体としての売り上げは連続で減少しているのです。どうして、こんなことを長くやってきたのか。それはビールメーカーが国内市場しか見てこなかったからです。およそ1億2700万人という日本の人口は中途半端で、なんと国内需要だけで企業はやってこられてしまった。日本は人口が減少の一途をたどっているので、今後は海外市場のニーズをつかんでいく必要があります。
(2)「安い国」ニッポン
グローバル化を続ける世界の中で、ここ最近際立っているのが、日本の「物価の安さ」です。ダイソーの商品価格を比較してみると、日本の100円に対して、中国では153円、シンガポールでは158円、アメリカでは162円、ブラジルでは215円と、どの国も日本より50円以上も高くなっています。ディズニーランドの入場料は、日本では8200円ですが、アメリカでは1万4000円くらいと大きな開きがあります。今や日本だけが取り残されたように物価が安いのです。
(3)急速に進行する「格差化」
黄色いベスト運動はフランスで2015年から2020年にかけて実施されている自動車燃料の増税に対する抗議運動です。最初は、その影響をもろに受けるドライバー達が、安全確保のために着用する黄色いベストを着て抗議したに過ぎませんでした。しかし、多くの国民が加わるようになり、あっという間に30万人規模のデモへと発展していきました。この運動を支えた中心層は、月の世帯収入が19万円くらいの労働者や年金生活者だといわれています。黄色いベスト運動が、他のデモ活動と違うのは、いわゆる右派・左派といった政治思想に関係なく、富裕層と庶民という階級闘争として発展していったことです。このことは、現代のフランスがまぎれもない格差社会であり、いかに二極化が深刻なものになっているかを示しています。
日本もすでに貧富の差が激しい二極化社会に突入しています。日本の単身世帯の金融資産保有額の「中央値」は45万円となっています。一方、世帯全体の「平均値」は645万円に上ります。少数のお金持ちがいることで平均値が大きく引き上げられています。また、金融資産を全く持たない単身世帯の割合は、2007年は29.9%だったのに対し、2019年には38%と増えています。とくに、40代で年収300万円未満の層は、49.7%が貯蓄ゼロです。
(4)高齢社会で起きている事
日本には高齢の経営者や幹部がいつまでも残り続けている企業が多く、結果として経営が弱体化しています。2010年に経営破綻したJALもそうでした。破綻の原因の一つとなったのが、社内年金制度です。定年退職していった社員にたくさんのお金を支払っていたために経営が傾いたのですが、年齢の高い幹部社員はそれを知っていながら誰も改めようとしませんでした。なぜなら、もうすぐ自分もその蜜が吸えるからです。
今、現役を退いた世代に仕事をしてもらおうという動きが盛んです。「シルバー世代は銀の卵」などとはやし立てる流れもあります。労働人口に占める65歳以上の割合は、1980年には4.9%だったのが、2019年には13.2%に上昇しています。日本は少子化により労働力が減ってきているので、元気な高齢者に働いてもらうというのは悪くない選択です。しかし、彼らがいつまでも意思決定権を持っているのは問題だと思っています。日本を代表する名経営者でも、高齢になれば判断を間違える可能性が高くなるからです。会社という枠組みの中でも高齢化は問題になっているのです。
3、「仕事」
(1)自分から進んで「残業したがる」人
会社で一番ムダなものは何か。「必要のない残業」と言うと、多くの人が納得するのではないでしょうか。2017年にスマートワーク総研が、会社員・公務員1万人を対象に残業に関するアンケート調査を行いました。「なぜ残業をするのか」の理由について、1位が「生活費を増やしたいから」だったことが、ネットの炎上を呼びました。会社からしてみると、「生活費を増やすため」にだらだらと働く社員に残業代を払うのは100%ムダな人件費でしょう。経営者による社員の「働かせすぎ問題」がよくメディアに取り上げられていますが、社員たちが自分から必要もないのに「働こうとする問題」もまた根が深いのです。日本では、残業していると上司や同僚から「あいつは遅くまで頑張っているな」と評価されます。残業していると、稼ぎも増えるし、良い評価も得られるしで、まさに一石二鳥なのです。これでは、いかに働き方改革を唱えようとも、残業が減るはずがありません。
(2)これからの働き方
富国生命保険がIBMの「Watson」を導入して話題になりました。Watsonは言語を理解し、学習し、人間の意思決定を支援するシステムです。それによって富国生命は支払い査定業務の効率化を図り、担当部署の3割の人員削減に成功しました。2015年に野村総合研究所が発表した研究データは人々に衝撃を与えました。そこでは、今ある日本国内の601の職業について、2030年にはその49%がAIやロボットにとって代わられると報告がなされました。AIを活用することでよけいな人件費を支払うことなく経営活動ができるなら、経営陣が手にする報酬はより多くなります。それは株主も同様です。そうした一握りの人たちはAIのお蔭でより豊かになり、大半の人たちはAIのせいでひどく貧しくなるのではないでしょうか。
(3)会社も個人も得をしない「全体主義」
2016年、電通は女性社員の過労自殺が社会問題化したことで、残業時間の見直しを図りました。その結果、22時以降は本社ビルをはじめ、すべての事務所を消灯させる措置を執りました。実際、22時以降、電通の本社ビル周辺のカフェは持ち帰り仕事をする社員だらけになりました。それにしても、なぜ一斉消灯なのでしょうか。大企業であるが故に個々への対応は難しいなどの事情はあるでしょうが、あまりに全体主義的な対応です。電通には「働きたくてたまらない」社員が大勢います。彼らにとって、22時なんて、まだまだ早い時間帯です。そうした価値観は一人ひとり違っていて、それぞれがしたいようにすればいいのです。それを一律に押さえ込んでしまっては、会社も社員も得をしません。働きたい社員には働ける環境を用意しつつ、過度な業務を強いられている社員がいないか、チェックできる体制をつくっていくべきです。
4、教育
(1)大事な大事な「お金」教育がない
学校で何を教えるべきなのか。何よりもまず「お金の教育」が必要だと考えています。子供のうちにお金のことを殆ど学ばないまま社会に出ると、取り返しのつかない失敗をしてしまう危険性があります。子供が将来、幸せに生きられるためにするのが教育だとしたら、お金のことは絶対に教えておかなければなりません。消費生活センターに「多重債務に関する相談」が毎月3000件程度寄せられます。相談内容の多くが、消費者金融からの借り入れ、クレジットカードローン、銀行カードローンなどが溜って支払いができなくなったというものです。銀行のカードローンの利率も約15%と消費者金融と変わりませんので、軽い気持ちで借りていたら、いつのまにか返済が追い付かなくなります。借金の仕組みを理解していない人がたくさんいます。さらに多くの人がはまっているのが、クレジットカードのリボ払いです。リボ払いは、支払額を毎月一定額に固定し、利子と共に返済していく方法です。例えば、30万円のブランドバックを購入した時に、リボ払いで毎月1万円ずつ支払う設定にすれば口座に1万円以上あるだけでいいので、ずいぶん楽に感じます。ところが、ここに大きな落とし穴があります。1万円を30カ月支払えば終わりというわけではありません。そこに金利分が乗るので(利率15%で計算した場合58000円)余計に支払わなければなりません。要するに30万円のものを35万8000円で購入しているわけです。「毎月1万円で済む」という油断から、多くの人が最初の支払いを終えないうちに他の買い物についてもリボ払いにします。そして、どんどん毎月の支払額が膨らんでいき、自己破産に陥るケースが多いのです。
5、政治
(1)限界寸前の民主主義
最近の選挙では「ポピュリズム」の台頭が大きな潮流となっています。ポピュリズムとは、大衆に迎合し人気を煽る政治姿勢のことです。ここ数年、大衆を煽ることで選挙に勝利する事例が相次いでいます。アメリカファーストを唱えたドラルド・トランプが大統領に選ばれ、イギリスがEU離脱を選択し、ドイツでも自国第一主義を唱える右派政党「ドイツのための選択肢」が躍進しました。グローバル化が進むなかで、多くの国で中間層の二極化が生まれ、国民は一握りの富裕層と多くの貧困層に分断されてしまいました。貧困層の不満を収めるには、「私たちの国家はすばらしい。ナンバーワンだ」というナショナリズムの喚起は有効な手法なのです。ポピュリストへの期待の背景にあるのは、エリート層に対する不信感です。こうした不満を追い風に人気を高めていくのがポピュリストなのです。
(2)「国は借金しまくっても潰れない」の嘘
最近「MMT(現代貨幣理論Modern Monetary Theory)」が注目を浴びています。これは簡単に言うと「国家はいくら借金しても破綻しないから大丈夫」という理論です。国ならいくら借金してもOKだというなら、税金を廃止し「無税国家」にして、年金も医療費もすべて借金でまかなってくれてもよくなります。しかしそれができないから、国としては消費税を上げたりしなくてはならないわけです。
0コメント