教養としてのワイン
1、 要旨
最近は日本のワインもレベルを上げてきて、フランスやイタリアのワインと比べても競争できるようになってきました。ホテルのディナーではワインを嗜む日本人も多くいます。ワインについて少し知識を増やしておくのも良いのかなと思っていたら、渡辺順子著「教養としてのワイン」という本が目に入りました。とてもわかり易く、かつ楽しい本だったので、以下に抜粋を記させていただきます。
2、 ワイン伝統国「フランス」を知る
(1) フランスがワイン大国になった理由
ワインの歴史は非常に古く、6000年前にはすでに存在していたようです。紀元前3000年ごろになると、ワインはエジプトに渡ります。そして、それぞれの生活の中に浸透していきました。その後、ギリシャへ伝わったワインは大量生産が可能になり、地中海全域に広がっていきました。ローマ帝国の力が増し、その勢力をヨーロッパ各地に拡大していくなか、ジュリアス・シーザーは遠征の先々でぶどうを植えさせ、地元の人々にワイン造りを伝えていきました。
そして、ワインの存在価値はイエス・キリストの登場により大きく変わります。イエスは「最後の晩餐」の中で、「ワインは私の血である」という有名な言葉を残しました。その結果、ワインは「聖なる飲み物」として、神聖で貴重なものして扱われるようになったのです。
そして、18世紀に入ると、ワインはヨーロッパの王侯貴族に愛されたことで、大きな発展を遂げることになります。皇帝や貴族達は、こぞって高級ワインを求め、華やかな宮廷文化をワインが彩ました。特にフランスは国をあげてワインの品質やブランドを法律で守ってきたのです。1935年には産地のブランドを守るため「AOC法(原産地統制呼称法)」を制定しています。使用可能なぶどう品種や最低アルコール度数、ぶどうの栽培・選定方法や収穫量、ワインの醸造方法や熟成条件まで、産地ごとのルールを細かく定めたのです。こうして、質の高いワインを生み出すフランスには有名なワイン産地がいくつもあります。
(2) なぜボルドーワインは世界的に有名になれたのか
フランスワインを語るうえで欠かせないのが、ボルドー地方です。ボルドーは高級赤ワインを産出するフランス南西部に位置する最高峰のワイン醸造地です。ボルドーの土壌は砂利質で土地は痩せていますが、水はけが良くぶどうの栽培には最適な環境です。気候も日射量も、ぶどうの生育にはぴったりでした。さらに町中を流れるガロンヌ川のおかげで、ワインの輸送にも便利な土地柄でした。19世紀中ごろ、ボルドーワインを世界的に知らしめた出来事がありました。「メドック格付け」です。メドック地区にある赤ワインをつくるシャトーに1~5級の5等級で格付けがなされました。
(3) 神に愛された土地ブルゴーニュの魅力
フランス東部に位置するブルゴーニュ地方は、ボルドーと並ぶフランス最高峰のワイン産地です。ボルドーのような聳え立つシャトーは見当たらず、のどかで牧歌的な光景が広がっています。世界最高峰のロマネ・コンティのドメーヌでさえ「作業所」といった見栄えなのです。ブルゴーニュでは畑ごとに4つの格付けがあります。
最高級ワインを生み出す「コート・ドール」という地域があります。ロマネ・コンティもまたこの地域のロマネ村でつくられています。ロマネ村は「神に愛された村」という異名をもちます。コート・ドールには有名なモンラッシェ村があります。ここでは世界最高峰の白ワインがつくられています。
ボージョレー地区もブルゴーニュにあります。ボージョレー・ヌーボーはわずか数週間の熟成期間で出荷していいと決められており、その最初の出荷日が「解禁日」と呼ばれる11月の第3木曜日なのです。シャブリもこの地区にあります。海のミネラルがたっぷり含まれた特異な土壌で育つシャルドネから、酸味が強くキレの良い白ワインが生まれます。
(4) フランスワインの個性的な名脇役たち
シャンパーニュ地方も有名です。シャンパンを名乗れるのはフランスのシャンパーニュ地方でつくられ、法律で規定された条件を満たしたものだけです。シャンパンの要である発砲は、瓶内二次発酵されたものだけに限られます。瓶内二次発酵とは瓶詰したワインに糖分や酵母を加え再び発酵させ、炭酸をつくり出す方法です。ワインに炭酸を入れたりしたものはシャンパンとは認められません。シャンパンの中でも、世界的に有名なのは「ドン・ペリニョン」です。
近年急に人気が出てきたロゼワインの生産地がプロヴァンス地方です。フランスでつくられるロゼワインの4割がここで生産されています。
3、 食とワインとイタリア
(1) 食が先か、ワインが先か
フランスとワインで肩を並べる国と言えばイタリアです。イタリアのワイン生産量は、大国フランスを抜いて世界一です。イタリアではすべての州でワインが醸造されており、それぞれの土地の土壌や天候の特徴を生かしたワインがつくられています。どれを選んでも飲みやすいイタリアワインは、ワイン初心者でもカジュアルに楽しめます。ゆるい管理により質とブランドを担保し切れなかったことが、イタリアワインがフランスワインに遅れをとった大きな理由のひとつです。イタリアワインと各地の郷土料理との関係は「卵が先か、鶏が先か」と表現されるくらいです。
イタリアを代表するワイン銘醸地といえば、ピエモンテ州とトスカーナ州です。ピエモンテ州にある高級ワイン産地のうち、有名なのはランゲ地区にあるバローロ村とバルバレスコ村です。
4、 ヨーロッパが誇る古豪たちの実力
ワイン生産量で世界第3位のスペインは古くからのワイン醸造が行われてきた国です。豊富な日射量に恵まれたスペインではアルコール度数が高く、タンニンのしっかりしたワインがつくられている。「シェリー」は世界3大酒精強化ワインのひとつで、アンダルシア州の名品です。
ドイツは世界で最北のワイン生産地ですが、その冷涼な気候と土壌の性質を生かした辛口白ワインが生み出されています。果実の糖度が上がらず、アルコール度数の低いのがドイツワインの特徴です。「アイスワイン」も有名です。他の国では生産が難しい貴重なデザートワインの一種です。収穫は真冬の夜中で、すべて手摘みです。氷結したぶどうをすぐに搾らなければなりません。この製法では通常の10%の量しかワインがつくれないため希少性が高くなります。
5、 知られざる新興国ワインの世界
(1)アメリカが生んだ「ビジネスワイン」の実力
アメリカは経済大国らしい新たなワイン造りが行われています。「雨が降らないなら降らせる」というやり方でぶどうを育てるのも、アメリカの特徴です。こうして伝統にとらわれないワイン造りによって、今や世界第4位のワイン生産国になりました。カリフォルニア州がその生産量の90%を占めています。近年、オレゴン州やワシントン州やヴァージニア州、さらにはニューヨーク州などでワインが生産されています。
(2)未来を担う期待のワイン生産地
ワイン新興国と呼ばれる歴史の浅い産地でも、品質の向上がめざましく、安くて美味しいワインがつくられています。チルでワイン造りが発展した背景には、19世紀後半にヨーロッパを襲ったぶどう害虫(フィロキセラ)の発生があります。ヨーロッパの醸造家達が、害虫の被害にあっていないチリへ渡って行きました。こうして、「安かろう悪かろう」だったチリワインが「安くて美味しい」ワインに変わっていきました。日本ではチリからの製品には関税がかからないので、チリワインの輸入が急増しました。
ニュージーランドも歴史が浅いワイン産地です。不動産価格の安いニュージーランドに世界各国の醸造家がワイン造りを始めています。殆どの銘柄で、コルクではなくスクリューキャップが採用されています。実際に使用してみると、殆ど品質に差がでないことがわかってきました。
中国産のワインも登場し、高価格で売られています。生産地は雲南省です。
日本のワインも目覚ましい進歩をとげています。日本の得意なモノづくりの技術を駆使すれば、海外の銘醸ワインと同等の味わいをつくり出せるでしょう。
6、進むワインのビジネス化
ワイン業界でもIT化が進み、人や天候に左右されていたワインの品質もコンピュータで制御され、品質が安定したことで大量生産も可能になりました。スーパーにも多くのワインが陳列され、ワインを嗜む層が拡大しました。高級ワインの需要が高まったニューヨークではオークションで高額のワインが取引されるようになり、レアワインが集まるようになりました。その後、中国市場でもワインオークションが大変な賑わいを見せています。
近年、ワインは「投資」としての側面も強くなってきました。イギリスをはじめ、欧米に相次いでワインファンドが設立されています。
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