疫病と投資
1、 要旨
新型コロナウィルスが投資にどんな影響を及ぼすのか大変興味がありました。歴史を参考に予想した「疫病と投資」中原圭介著から抜粋してその内容を以下に記します。
2、人類が根絶できた感染症は天然痘だけ
2020年に入ってから世界的に広がった新型コロナウィルス(COVID-19)は、1918年に猛威を振るったスペイン風邪以来のパンデミックと言われています。世界史をひもといていくと、人類の歴史はパンデミックと共にあったことが分かります。古いところでは天然痘が挙げられます。エジプトのミイラに天然痘の痕跡が見られたと言われているくらいですから、紀元前にはすでに存在していた感染症です。疱瘡や痘瘡とも呼ばれ、6世紀には日本で広がり、その後も周期的に流行しました。16世紀にはコロンブスの新大陸発見によって進んだ「コロンブス交換(1492年から続いた東半球と西半球の間の植物・食物・人などの広範囲にわたる交換)」によって、アメリカ大陸で天然痘が大流行し、先住民族の大半が亡くなったと言われています。しかし、1798年にエドワード・ジェンナーがワクチンを発表し、予防接種が徐々に世界中に広まっていくと、天然痘は消えて行きました。天然痘は人類が根絶できた唯一の感染症で、1980年にWHOが世界根絶宣言を出しました。
ペストは過去3回のパンデミックがありました。それぞれ西暦540年~750年、1331年~1855年、1855年~1960年に発生しました。現代社会でもペストに感染する人はいます。現在はペストの治療薬として抗生物質を投与することにより治るケースが増えました。
第1回目は西暦540年~750年にかけてのパンデミックで、まず東ローマ帝国の首都であるコンスタンチノープルで大流行しました。流行の最盛期には1日で1万人が亡くなったと言われており、コンスタンチノープルの人口が約半分にまで減り、首都機能が麻痺状態に陥ったそうです。この流行は簡単には収まらず、西ローマ帝国やイギリス・フランス・中近東・アジアにまで広がりました。2回目は1331年~1855年にかけて広がったもので、特に1346年~1350年にかけてヨーロッパ中で猛威を振るい、感染すると皮膚に黒い斑点や腫瘍が出来るため「黒死病」と呼ばれました。このヨーロッパで猛威を振るった時の被害が甚大で、当時のヨーロッパ人口の1/3~2/3が亡くなったと言われています。3回目のパンデミックは中国から起こりました。1855年に雲南省で大流行した後、香港でも大流行し、20世紀の初頭にかけて中国の沿海部や台湾・日本・ハワイ・アメリカ・東南アジアへと広がって行きました。特にインドが非常に大きな被害を受け、第二次世界大戦が勃発した1941年までの死亡者数は1200万人にも達したと言われています。日本で初めてペスト患者が見つかったのは1899年のことで、1926年までの27年間で患者数は2905人となり、そのうち2420人が亡くなりました。1927年以降に、日本国内でペスト菌に感染したという報告はありません。
3、ペストにより封建体制が崩壊
2回目のペストが大流行したヨーロッパでは「封建制度」が社会の基本をなしていました。封建社会とは農業製品を主たる生産物として、農奴が生産労働を担う一方、聖職者や貴族が農地や労働力である農奴を所有・支配する社会のこと。ペストで大勢の農奴が亡くなったことによって、農作物の生産者が激減しました。それにより農奴の待遇改善が進み、領主裁判権・死亡税・結婚税などの封建的束縛から農奴が解放され、自立した独立自営農民になっていった。こうして、ペストがきっかけとなって封建社会は崩壊し、諸侯が没落していく一方で、今度は王権の力が強化され、中央集権国家へと移行していった。
4、第一次世界大戦の戦況を左右したスペイン風邪
連合国側はロシア・フランス・イギリス・アイルランドで、同盟国側はドイツ・オーストリア=ハンガリーで争い、戦禍が拡大していくなかでアメリカ・日本が連合国側につき、トルコ・ブルガリアが同盟国側についた。この4年4か月に及んだ戦争で約1600万人が亡くなった。そのなかの1/3は「スペイン風邪」で亡くなった。第一次世界大戦で連合国が勝利を収めたのは、当初イギリスやフランスを中心に拡散していたスペイン風邪が、しばらくしてからドイツで広まり、戦争を続行するのが困難になるほどドイツ国内を疲弊させたからです。スペイン風邪はA型インフルエンザの俗称です。全世界にスペイン風邪で死亡した数は約4000万人と言われています。最初にスペイン風邪の症状が見つかったのは、1918年3月アメリカのカンザス州にある陸軍ファンストン基地だと言われています。この基地で訓練を受けた兵士がヨーロッパ戦線に投じられました。戦時体制ですから情報統制が敷かれ、参戦国の間ではインフルエンザについて報道されませんでした。ところがスペインは中立国だったため、自由に報道できました。当時のスペイン国王までもが感染したことから報道がエスカレートし、いつのまにか発生源はスペインという誤解を生むことになった。1918年6月にドイツ軍がイギリス軍・フランス軍の捕虜をドイツ国内に連れて戻ったところ、この捕虜がスペイン風邪に感染していたため、ドイツ国内に蔓延してしまった。その一方で連合国側ではスペイン風邪から回復する兵士が増え、免疫力を得ていきました。戦況は一挙に連合国側有利となり、同盟国側は敗戦を余儀なくされた。
5、感染症と共存していく社会へ
テレワークの普及は、日本の生産性を大幅に引き上げるポテンシャルを秘めています。人口減少が今後、加速度的に進む日本では、今の経済規模を維持するために最も有効なツールのひとつになります。パンデミックによって半ば強制的にテレワークを導入せざるを得ない状況に直面したのです。テレワークを導入した企業の生産性は2~3割程度上がると思います。なぜなら、日本の会社員にとって毎日の「通勤」は「痛勤」と表現されるほど肉体的および時間的な負担が大きいからです。日本人の働き方の意識が「時間」から「成果」へと変わっていく効果も期待できます。時間給から成果給に切り替えるところが増えてきます。成果給とジョブ型雇用が一般的になるでしょう。ジョブ型雇用とは、職務を明確に規定し成果を評価しやすくする雇用制度のことで、時間ベースで管理しにくい在宅勤務と相性が良いとされます。ジョブ型雇用には「ジョブディスクリプション(職務規定書)」が必要不可欠です。その一方で、テレワークに対して否定的な考えもあります。人が集まる場には、その場の雰囲気や微妙なニュアンスの伝達、創造的な発想を生む雑談などデジタル技術で代替できない価値もあります。また「職場に行かないと資料を見られない」などを理由に生産性が落ちるという人もいますが、書類探しや閲覧のためにオフィスに通う必要はありません。書類をクラウド上で共有すれば解決します。ペーパーレスがテレワークの基盤です。そのうえでテレワークが機能するポイントは、普段から誰が何の仕事をしているか可視化することです。また、自分の仕事部屋を持っていれば良いのですが、日本の住宅事情を考えると、そうもいきません。その場合、社員が自宅から短時間で移動できる場所にテレワークのための環境が整った施設を企業が整備すれば良いのです。
6、東京一極集中時代の終わり
東京への人口集中は近代化に伴い、19世紀末から本格化しました。人口移動は所得や雇用に大きく左右されます。誰でも所得水準が高く、雇用もたくさんあるところでの生活を望みます。東京に行けばより多く稼げる仕事がたくさんあると、誰もが考えたからです。東京のように特定の都市に人口が集中的に流入すると、そこに感染症が入り込んだ時、人から人へと感染が拡大し、パンデミックを引き起こしやすくなります。パンデミックを引き起こさないようにするためには、首都圏人口を減らすことですが、東京に企業が集中していて出来ませんでした。その理由は「東京に本社がある」というブランド意識を捨てることへの抵抗感や、取引先との距離が離れる事、あるいはホットな情報が入りにくくなるなどです。そこに大きな風穴をあけたのがCOVID-19のパンデミックでした。企業が本気になってテレワークを推進すれば、地方分散は着実に進みます。企業が生産性を劇的に向上させると同時に、社会により貢献できる会社に進化するために、都心にある本社を地方に移転又は分散させることは非常に有効な選択肢です。本社を地方に移転又は分散することで得られる第一の効果は、社員の大きな負担が減ることです。オフィスが地方に分散すれば多くの社員は通勤地獄から解放されます。通勤で体力を消耗することなく、最初から仕事に集中できます。仕事における生産性を高めながら、残業時間も減らすことが出来ます。第二の効果は社員の感性が豊かになることです。感性を豊かにするためには、自然と触れ合う時間をつくることが効果的な方法です。普段から自然が豊かな環境で生活していれば、感性がいっそう豊かになり、創造性や独創性を鍛えることにもつながるでしょう。
7、大都市圏の地価は下落基調に
日本の地価は、東京をはじめとする大都市圏の地価がけん引役となって、回復基調をたどってきました。しかしCOVID-19が全国規模で蔓延してからは徐々に状況が変わってきました。新宿区や渋谷区のIT企業が多いところのオフィス賃料が下がり始めました。ところがすでに計画が進行中の再開発がたくさんあります。例えば渋谷再開発事業、高輪ゲートウェイ駅周辺の大規模開発事業、虎ノ門エリア再開発事業など多数進行中で、これにより大量のオフィスが供給されます。このため大都市圏のオフィス賃料は下落すると予想されます。同じように大都市圏の小売店・飲食店の賃料も下落が予想できます。大都市圏のマンションも同じように下落することが予想されます。
8、デジタル化で教育の概念が変わる
教育のデジタル化によってオンライン教育が実現すると、教育の概念が根底から大きく変わります。教室の人数制限がないので、誰でも授業を受けられるようになります。場所の制約も受けないので、遠隔地の人でもコストをかけずに対等に参加できます。大学側にしてみれば、もはや広大なキャンパスを用意する必要はなくなります。オンライン教育の進展は、今後の入試のあり方、入学の概念そのものを大きく変えていく可能性があります。
9、「出張」は死語になる
完全に負け組に入るのが公共交通機関です。飛行機にしても鉄道にしても、現時点で稼働率が大幅に低下していますが、これは感染症拡大の問題が仮に解消したとしても、元の水準には戻れないと思います。すでに多くの人がZOOMなどを用いたビデオ会議を経験し、その便利さを実感しています。わざわざ高い交通費と宿泊費、それに貴重な時間を割いてまで遠方に出張するというビジネスのスタイルは、完全に過去のものです。紳士服も厳しい状況になっています。テレワークが普及すればジャケットを着る必要が無くなります。
10、伸びる事業は「非接触型」
分かり易い事例としては、Eコマースが挙げられます。インターネットで行えるのはモノを選び注文を出すところまでなので、そこから先の物流はリアルのまま残ります。したがって宅配事業は拡大していくでしょう。不動産ビジネスも内見から購入、ローンの組成に至るまでオンライン化する動きがあります。コンビニエンスストアの無人化実験に見られるように、人と人がリアルに会って成り立っていたビジネスをオンライン化していく流れも、今後はどんどん増えていきます。
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