演題「生命観を問い返す」

1、 要旨

清真学園(茨城県鹿嶋市)にて2009年12月5日に高校生を対象に福岡伸一先生の講演会があった。その講演内容を以下に記す。

2、 講演内容

(1) レーエンフックとヨハネス・フェルメール

  レーエンフックは世界で最初に顕微鏡を作った人。オランダの小さな町の役人。

  ヨハネス・フェルメールはレーエンフックと同じ町に生まれ、誕生日(1632年10月)も一緒である有名な画家。

  レーエンフックが自分で作った顕微鏡(300倍程度まで拡大できた)で細胞を見たことから現在の生物学がスタートした。それはミクロの世界への追求の歴史であった。現在は遺伝子の暗号解読まで完了するところまできた。

(2) 生物の機械論

  レーエンフックは世界で最初に顕微鏡を作ってから、人類の生物学(医学も含

む)は生物を構成するものは機械の部品として考えてきた。その部品が故障す

れば、そこに不具合が生じるとしてきた。

GP2遺伝子ノックアウトマウス(遺伝子のGP2部分を切り取ってしまう)を

観察していれば、何かの変化が起こるはず(機械論では)だった。しかし、な

にも起こらなかった。

(3) ルドルフ・シェーンハイマー(1898年~1941年)

  「生命とは流れである」と突然言い出した。彼は「生物はどうして食べ続けな

ければ生きていけないのか」を調べた。食べるものにアイソトープで色をつけ

て、それをマウスに食べさせた。すると食べた食物の約半分がマウスの体の成

分となったが、全く体重は増えなかった。つまり、入ってきたと同じ量が外へ

出されたと考えた。この流れを維持するために食べている。つまり、「細胞が入

れ替わっていること」が生きていることなのではないか。

(4) 福岡伸一先生論

   ルドルフ・シェーンハイマーが発見した考え方を「動的平衡」と名づけた。

   「動的平衡」とは絶間なく消長・交換・変化しているにも関わらず全体とし

て一定のバランスが保たれている。人間ひとりひとりの存在もその人を取り

囲む環境の中(関係性)で役割が決まっている。自分の内面を探してみても、

自分は見つからない。

レーエンフックが好きですが、その描かれた人物の顔をみてもどの範囲が鼻

なのか区別が付けられない。つまり、生物は機械部品のようにはできていな

かった。

(5) 現在の状況

①  花粉症

花粉症にかかって医者にいくと抗ヒスタミン剤を処方してくれる。

スギ花粉が体内に入ってきたら、免疫細胞はヒスタミンを分泌して鼻水を出す細胞に信号を送る。それによって、スギ花粉を対外に追い出そうとする働きがある。抗ヒスタミン剤は鼻水を出す細胞に信号を届かなくする(ブロックする)。それを繰り返すと鼻水を出す細胞はもっと多くのレセプターをつくり、免疫細胞はもっと多くのヒスタミンを分泌するようになり、人は益々スギ花粉に過敏になっていく。

② 狂牛病

1920年 イギリスで肉骨粉製造(動物の死体を処理)が始まった。

1980年 原油価格の高騰で、2時間煮込んでいたものを30分に変更した。

1981年 1985年 イギリス全土で多発的に狂牛病が発生した。

1988年 肉骨粉に原因があるとして、イギリス国内の販売を禁止した。

1996年 人間にも狂牛病の感染者で出た。

2001年 日本でも狂牛病の感染者(第1号)が出た。

2003年 米国でも狂牛病の感染者(第1号)が出て、日本への輸入禁止となる。

2005年 輸入再開となる。

(6) 感想

① 「動的平衡」とは、方丈記 鴨長明(1155年生)「ゆく河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかとまたかくのごとし」を現代科学の言葉で表現したものではないか。

② 我々を囲んでいる環境も企業活動も全て同じ「動的平衡」ではないのか。それが科学を通じてようやくわかってきた。

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